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東京高等裁判所 昭和29年(ラ)49号 決定 1954年10月29日

抗告人 山畔昌子

訴訟代理人 溜池肇

相手方 佐藤富三郎

主文

原決定を取り消す。

碧井猛名義の申出による競落は、これを許さない。

抗告費用は、相手方の負担とする。

理由

本件抗告の理由は、別紙記載のとおりであつて、これに対し、当裁判所は、次のとおり判断する。

一、強制執行の開始後に債務者が死亡したときは、強制執行は、遺産に対しこれを続行し、ただ債務者の知ることを要する執行行為を実施する場合に限り、債務者の相続人に対して、これをなせば足りるものであることは、民事訴訟法第五百五十二条の規定から明白である。

抗告人提出の戸籍謄本によれば、債務者山畔政次郎は、昭和二十七年九月二十七日死亡し、抗告人外四名の者が相続をしたことが認められるが、本件記録によれば、原裁判所は、これより先昭和二十六年十一月二十二日、本件について強制競売開始決定をなしており、山畔政次郎死亡後において、債務者の知ることを要する執行行為は、なにもしていないことが認められるから、(強制競売手続における債務者に対する競売期日の通知については、民事訴訟法上何等の規定もない。)抗告理由一は、採用することができない。

二、本件記録中所論の昭和二十八年十一月十日及び昭和二十九年二月四日の各競売期日調書における利害関係人の記印調印をくらべて見ると、前の期日において最高価二十万三千百円で競買の申出をした東京都板橋区六丁目三千三百九十番地碧井義光と、後の期日において、同一の不動産に対して最高価六万円で競買の申出をした同所同番地碧井猛とは、同一人であることが認められる。ところが碧井義光は、前の競売期日における競売の申出につき、昭和二十八年十一月十一日の競落期日に競落許可の決定を受けながら、同年十二月十七日の代金支払期日に右買入代金の支払をしなかつたので、原裁判所は、再競売を命じ、後の競売期日が開かれたものであることが、記録上認められる。してみれば碧井義光が、後の競買に加わることができないことは、民事訴訟法第六百八十八条第五項の規定により明白であるから、同人が、後の競売期日に出頭し、碧井猛の名義で、前述の競買申出をなしたのは、同法第六百七十二条第二号の最高競買人が売買契約を取り結び若くはその不動産を取得する能力のない場合に該当し、右競買申出による競落は、許されないものと解するを相当とする。

すなわち右の点において、本件抗告は理由があるから、原決定を取り消し、民事訴訟法第六百八十二条、第六百七十四条、第八十九条により、主文のように決定した。

(裁判長判事 小堀保 判事 原増司 判事 高井常太郎)

抗告の理由

本件競売手続は左の事由により不適法である。従つて抗告の趣旨表示裁判は取消されねばならない。

一、(一)本競売事件の債務者として表示なされている山畔政次郎は昭和二十七年九月二十七日死亡し抗告人外四名(憲子、和政、政勝、啓子)が本件不動産の所有権を共同相続した、然して相続人中抗告人以外の者はいずれも未成年者であつて訴訟行為等については勿論無能力者である。

(二)然るに本件競売手続は右の事実を無視し債務者山畔政次郎の死亡後も依然として最早や虚無人たる同人を当事者の一員として続行されたものであつて同人の死亡後行はれた本件に関する諸手続就中本件競落手続及之に対する許可決定は一切その効力を生じなかつたものと言ふべきである。特に本件の場合は亡山畔政次郎の相続人中抗告人を除く他の四名がいずれも未成年者であり併も親権者は勿論後見人も存在しない状態である(第一号証参照)から無能力者保護の趣旨からも右の結論は是認されねばならない。

二、以上の主張が成立たないとしても本件は既に昭和二十八年十一月十日の競売期日に於て板橋区板橋町六丁目三三九番地碧井義光が競落し同人に対する競落許可の裁判も亦確定したに不拘今回競落した同所同番地碧井猛は形式上前回の競落人と別異の人物の様であるが(イ)住所が完全に一致していること(ロ)同姓であること其の他の情況より押して実質的に前回競落人碧井義光と全く同一人であるか又は右同人に単に名義を貸与した者であつて競落資金も亦右同人の出捐に係るものであることは明瞭である。尚第一回競落人は不動産仲介業者であつて今回の競落人は同人の親族であり且同人の業務の協力者であつて両者は実質的に一体であることを申添える。

従つて今回の競落は民事訴訟法第六八八条第五項に牴触するので今回の競売手続は無効である。

三、追而抗告人は本件債務者の相続人の一員であり且本件不動産の共有者の一員としての権利保全の為本申立に及んだ。

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